受精卵診断はそのまま受精卵改造への前段ともなり、人間改造は目前という事態になる。
受精卵の遺伝子診断を推進する立場のT氏も、その可能性(危険性)は否定しない。
「ただし、だから診断の研究までやめろというのは暴論です。
ヒトへの臨床応用についても、なによりも患者に責任をもつ立場の医師にたいして、ものごとの善し悪しを自分だけで判断しろ、ではすみません。
ある医療を実行するにしても禁止するにしても、多くの分野の人によって検討される必要があると思います。
そこで止めるべきだとの結論がでたら、医師としても実施を止めるでしょう」。
実際にというべきか、本章の冒頭で述べた鹿児島大学医学部の場合、倫理委員会が実施にOKを出す直前の95年3月、学外から実施決定について疑問が出されて、結論は先送りされることになった。
その経緯について、3月25日付の朝日新聞は次のように報じた。
日本初の受精卵の遺伝子診断について、臨床応用の是非を検討している鹿児島大学医学部の倫理委員会(委員長・S医学部長、8人)は24日、正式承認の予定を覆し、さらに論議を続けることを決めた。
9日に承認の方針を打ち出したが、「反響の大きさに驚いた。
情報を公開し、より幅広く意見を聴くべきだと判断した』(佐藤委員長)としている。
同倫理委が承認方針を打ち出した後、『一大学が決めるべきことではない』『身内の専門家ばかりで論議しても意味がない』などの声が多数寄せられた。
さらに、脳性まひ者の団体が『障害も1つの個性。
受精卵の段階での選別は、障害者の生存権を脅かす』と申し入れたり、対象疾患の1つに想定している血友病の患者の会が『医療側からの疾病の一方的な選別に反対する。
血友病を対象から外し、患者団体と協議してほしい』などとする要望書を送ったりしていた」それから1年以上たった96年夏になっても、結論が出ないばかりか、情報の公開や討論会が行われた気配がない。
これに対し、T氏は改めてこう話す。
「臨床応用の是非にかかわらず、受精卵診断のもつ意味を具体的に示して考えてもらう国レベルの場が必要だと思います。
必要とされる理由が理解されないまま、陽の目を見ないで終わるという事態はあまりにも残念ですからね」。
この夫婦はともに40代で、女性は病気によって子宮を失っているうえに、夫も精子検査によって授精能力がきわめて低いと判断されていた。
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